石原慎太郎先生党首討論(平成25年12月4日)


石原慎太郎君 日本維新の会の石原であります。

 特例秘密保護法に関しての被害妄想に駆られて、これが通ると憲兵が徘回し国民を取り締まるような嫌な時代がやってくるという流言飛語が、しかも大新聞の一面に掲載するような、総理の御祖父の岸総理の時代の一九六〇年の安保騒動に似たヒステリー現象が国会の周辺でも起こっておりますな。時代の事情に即応した非常に必要な法律だと私は思いますが、これは、安倍さん、星回りというんでしょうか、とにかく、あなたの御祖父の岸さんにまねて、毅然として対処をしていただきたいと思います。

 この法律をつくる限り、これを踏まえて、アメリカの中央情報局、あるいはイスラエルの、私は非常に評価しておりますけれども、非常に小さくとも極めて優秀なモサドのような国家組織というのをつくるべきじゃないかと私は思いますけれども、いかがでしょうか。


内閣総理大臣(安倍晋三君) 当然、NSCをつくって、そして情報の保全の法律をつくるわけでありますから、情報収集能力を持って、その秘密に当たる情報を収集してこなければ意味がないということであります。

 現在においては、政府において情報収集について能力を向上させていくべく努力をしておりますし、研修制度等も取り入れながら海外の機関の知見を取り入れている次第でございますが、確かに今石原共同代表がおっしゃったように、さらに、現状に甘んじることなく、さまざまな課題について能力を向上させていく努力をしていかなければいけない、このように思っております。


石原慎太郎君 この議論の中で、秘密の領域を余り広げずに、国家の安危にかかわる防衛問題に限るという意見もあるようでありますが、それを妥当とするなら、国家の安危にかかわる情報こそ、私はむしろ公開すべき場合があると思います。

 例えば先ほどもおっしゃいましたけれども、かつての、尖閣地域における中国の公船と称する怪しげな船の保安庁の監視船への衝突事件に関する嫌がらせと衝突の十数時間に及ぶビデオの映像、これは一色保安官の決断によって初めて開示されました。国民はその実態に触れました。これについては、腰抜けの民主党内閣が中国におもねって、これを秘密として隠蔽を命じましたね。そして一色保安官は、これを開示したことで国家公務員法違反として書類送検されて、辞職をしました。一色君の決断が国民の防衛に関する意識を呼び起こして、これを高めましたね。

 私は、この事例を見ますと、愚かな大将は敵よりむしろ恐ろしいというパラドックス、これはもう実証されたと思います。これによって、行われるべき国家的な討論や審議が著しく阻害されたと思います。これは後に述べますけれども、私たちが保持している防衛力を有効に駆使する、守るための交戦規定の設立がこれによって阻害されたと思います。

 これは、実は以前にもこれに似た事情が自民党内閣にもありました。

 かつて、昭和五十一年の三木内閣というどうしようもない内閣のときに、ロシアのミグ25戦闘機が函館に亡命、不時着しまして、これに対してソビエトのコマンドが襲来するかもしらぬという通報がありました。これは政府はろうばいしましたけれども、当時の三好陸幕長の初判断で、敵の襲来に備えて、戦車が飛行場に入り、高射砲も配備して臨戦態勢をとりました。

 そして政府は、この事件の処理の書類の焼却というのを後々命令をしました。そして、これについて行うべき討論なり情報というのは隠蔽されたわけですけれども、これに対して、三好陸幕長は辞任をして抗議をしましたね。その後、統幕の議長であった栗栖さんは、現行法では緊急事態に対する自衛隊は作戦行動ができないと政府を批判しました。当時の金丸防衛庁長官によって罷免をされました。

 その後の平成十一年、能登半島沖での不審船事件で、海上警備行動の発令ができずに、恐らく拉致した被害者を乗せたままであろうその不審船を取り逃がしてしまったわけです。

 その後も、ソマリア沖での海賊退治に海上自衛隊が派遣されました。当時、国会議員をしていたある人物が主唱して、ピースボートなるものがこれに反対して現地へ赴きましたが、海賊が怖くて、どうかとにかく海上自衛隊に保護してくれと依頼をしてきた。しかも、自分たちが反対した自衛隊に保護を求めるのは恥ずかしいものだから、本国に打電して、海上保安庁に出てきて守ってくれというばかなことを頼んだ。

 この場合の海上自衛隊の要するに行動というものは非常に制約されていまして、わざわざ外地に赴いた海上自衛隊が海賊に対していかに対処するかというその行動は、警察官の職務執行法の準用によって、拘束する相手が禁錮三年以上の罪を犯している場合にのみ攻撃をかましてよろしい、そういうばかな拘束を受けたわけです。これは本当に荒唐無稽な話ですけれども、こんな規約の中で行動する海軍が世界じゅうどこにあるでしょうか。

 私は、平時における個別自衛権の確立とそれを支える交戦規定は、これは本当に必要だと思いますが、現場で危険を冒している、防衛活動する自衛官をいたずらにむざむざと犠牲にさらしてはならないと思いますね。

 現在、仮に尖閣で、要するに、遊よくして警備をしている海上自衛隊の艦船が、目の前で保安庁の船にシナの公船なるものが体当たりをしてきてこれを沈めてしまった場合に、中国の軍艦に対して海上自衛隊の艦船は反撃できるんですか。できないでしょう。これは保安庁を見殺しにせざるを得ない。

 平時がいつ突発有事に変化するかわからぬこの現況の中で、集団自衛権の発動以前に、日本個人の自衛権というものを行使するための、これを担保する交戦規定、ROEを、これは創設されるNSCなどにおいて早急に作成されるべきと思います。そうしませんと、これは自衛隊が浮かばれませんよ。これについて総理の自覚を伺いたいと思います。


内閣総理大臣(安倍晋三君) ただいま石原共同代表がおっしゃった交戦規定、ルール・オブ・エンゲージメントですが、どの国の軍隊もそれは持っているわけであります。それはあらかじめ権限が部隊あるいは所属の責任者に与えられているわけでありますが、法制上与えられているものと、実際さまざまな状況においてどう対応するかということを決めておくことによって、部隊あるいは現場の兵士の負担を減らしていくわけであります。

 自衛隊には、いわゆる交戦規定という呼び方はしていないわけでありますが、部隊行動基準というものはあります。英語に訳すとルール・オブ・エンゲージメントにしておりますから同じなんですが、日本では部隊行動基準をつくっております。そしてそこで、今石原代表がおっしゃった、今のままでいいのか、そういう問題意識は持っております。

 そこで、今、安保法制懇におきまして、いわゆる集団的自衛権の問題のみならず、武力攻撃に至らない事態においてどのような実力行使が可能かどうかということを今検討しているところでございます。

 いずれにいたしましても、日本の国民、日本人の命を守り、領土、領海、領空をしっかりと保全するために、自衛隊の能力を生かして、能力があっても法制上それができない、あらかじめ決まっていないからできないということはないようにしていかなければいけない。

 そういう問題意識も持ちながら、NSCにおいてもいろいろな議論をしていきたい、さまざまな課題について議論をしていきたい、このように思っております。


石原慎太郎君 せっかく国民のとうとい税金を使って養ってきた自衛隊でありますから、非常に私たちは今緊張にさらされているわけです。恐らく、世界を見まして、国民の要するに数百人が情況証拠によって拉致されて返ってこない、生命まで奪われている、しかも領土は奪われる、しかも同胞も奪われ、しかも、それを侵している、とにかく周りを囲んでいる北朝鮮なりロシアなり、あるいは中国という国は核を持っている。こういう状況にさらされている国家は世界じゅうにないと思いますよ。

 これはやはり自覚して、ひとつ法整備もきちっとするなり、交戦権を踏まえて個別自衛権というものを確立して、私たちが安心して国民が暮らせるように、自衛隊が安心して戦えるような、ひとつそういう法整備を早急にしていただきたいと熱願いたします。

 終わります。頑張ってください。(拍手)


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